東京高等裁判所 昭和48年(ネ)980号・昭48年(ネ)964号 判決
賃借人である第一審原告は、賃貸人である第一審被告の履行不能によって本件賃借部分を使用収益できなくなったことが明らかであるので、その履行不能が第一審被告の責に帰すべき事由によるものであるかどうかを検討する。右認定事実によると、第一審被告は本件建物(本件賃借部分を含めて)を取得したことに伴ないその賃貸人となったのであるから、第一審被告が第一審原告との間で賃貸借契約を改めて締結しているとしても、実質的には第一審被告が本件建物を取得したことに伴なって当然に賃貸人の地位を承継したものにほかならず、そして、第一審被告は敷地所有者から収去を求める訴訟係属中の本件建物を取得したものであるから、第一審被告が右賃貸人の地位を承継した当時右訴訟係属を知らず借地権があると思っていても客観的には本件建物を収去しその敷地を明渡さなければならない事由すなわち本件建物の賃貸借が履行不能となる事由はその前からすでに生じていたわけである。そして第一審被告は本件建物を譲受後すでに係属していた敷地所有者との間の右建物収去土地明渡訴訟を引受け、また第一審原告に対して起された本件賃借部分からの退去を求める訴えのために自分の費用で弁護士を依頼し証拠を蒐集し控訴上告をして争ったにも拘らず、右履行不能の生じることを免れることができなかったのであり、いうならば第一審被告はかしのある賃貸人地位を承継したものとしてできるだけの努力を果しているものということができる。
もとより、履行不能が生じている場合、債務者においてその責に帰すべき事由によるものでないことを主張、立証する責任を負うものと解されるが(大判大正一四年二月二七日民集四巻九七頁、最判昭和三四年九月一七日民集一三巻一四一二頁参照)、債務者の免責事由であるその責に帰すべき事由によるものでないとは不可抗力による場合だけに限られるのではなく、債務者において可能な限りの努力を尽したと認められ信義則上債務者に責任を負わせることが酷であるといえる場合も、右免責事由に含まれると解するのが相当である。
そうすると、本件において第一審被告は賃貸人としてできるだけの可能な努力を尽しており信義則上賃貸人に責任を負わせるのは酷であるといえるから、第一審原告が賃貸借契約に基づき本件賃借部分を使用収益することができなくなったのは第一審被告の責に帰すべき事由によるものではなく、当初の賃貸人である東屋商事の責に帰すべきものである。
(伊藤 小山 山田)